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福岡地方裁判所 昭和25年(行)156号 判決

原告 鹿毛信義

被告 福岡県知事

被告 福岡市長

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告代理人は被告福岡市長が昭和二十五年三月八日付為した移甲第四二号移転命令はこれを取消す。被告福岡県知事が昭和二十五年八月二十八日付為した訴願棄却の裁決はこれを取消す。被告福岡県知事は被告福岡市長の為した前記移転命令を取消さなければならない訴訟費用は被告等の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、原告は昭和二十一年二月中進藤彦次郎からその所有に係る福岡市天神町三六番地の一の宅地を賃借し、同地上に木造浪形鉄板葺平屋建一棟建坪十二坪を建築所有しているものであるところ、被告福岡市長は特別都市計画法に基く土地区劃整理のため必要があるとして、右建物につき昭和二十五年三月八日付請求の趣旨記載通り移転命令を発した。然し右移転命令には後記の如き違法の疑があるので、原告から被告福岡県知事に対し訴願を提起してその取消を求めたが、昭和二十五年八月二十八日付でこれを棄却された。然しながら(一)本件移転命令はこれに先立つて原告に対し何等換地予定地を通知せずして為されたものであるから、この点において違法である。すなわち特別都市計画法第十三条の規定によれば、土地区劃整理のために必要があつて換地予定地を指定したときは、換地予定地及び従前の土地所有者にその旨を通知し、且つこれ等の土地について借地権等の権利を有するところのいわゆる関係者にもその旨を通知すべき旨同法第十五条第二項の規定によれば移転命令はこれに先立ち、予め換地予定地の指定を通知したのちに為さるべき旨各定められているところ原告は前記の通り借地権を有する関係者であるから、被告福岡市長が本件移転命令を発するに当つては、これに先立ち予め関係者たる原告に対し換地予定地の指定通知を為すべき義務があるというべく、従つてこのような通知を為すことなく発せられた本件移転命令にはこの点において違法の廉がある。(二)仮りに右主張にして理由がないとしても、本件移転命令書には「換地予定地は別途図面の通りとする」と記載せられておりながら、一葉の図面の添付もなく、又移転先の町名番地等何等の記載もないので該命令書によつては何処に移転すべきかを確認するに由がなくこのような移転先を明示しない漠然たる命令はそれ自体違法たるを免れない。以上の如く本件移転命令には明に違法の廉があるのであるから、被告福岡県知事としてはよろしく原告の訴願を容認し本件移転命令を取消すべきであつたというべく、この挙に出でず訴願を棄却した裁決の違法であることは当然である。よつて茲に原告は被告等に対しそれぞれ請求の趣旨に記載した通りの判決を求めるため本訴請求に及んだと陳述し、被告等の答弁に対し、原告が土地区劃整理施行地区の告示があつたのち、一定の期間内に借地権の届出をしなかつたことは認めるが、これは被告福岡市長から何等届出を為すべき通知がなかつたからである。又原告が右借地権につき登記を了していないことは争わないと述べた。(立証省略)

被告等代理人はいずれも主文同旨の判決を求め答弁として本訴請求原因事実は法律上の解釈の点を除きその余の外形的事実はこれを争わない。然しながら本件移転命令は適法であり、従つて亦原告の訴願を棄却した右本件裁決にも何等違法の廉はない。その理由は次の通りである。すなわち(一)原告は自分は特別都市計画法第十三条第二項の定める関係者である旨主張しているが、同条にいわゆる関係者というのは、既登記の地上権、賃借権、永小作権又は質権を有する者若しくは土地区劃整理施行地区の告示があつた日から一ケ月以内に権利の存する土地の所有者と連署し、又は権利を証する書類を添付し、書面を以て、権利の種別及びその目的たる土地の所在を届出た者をいうものと解すべきところ、原告の借地権は未登記の権利であり、然も前記の如き権利の届出をも為されていないので、原告は茲にいわゆる関係者には該当しないと解すべきである。それで被告福岡市長が原告に対し、換地予定地の通知をしないで本件移転命令を発したことは当然であつて何等違法の廉はない。(二)次に原告は本件移転命令書に移転先の明示がしてないことを理由にこのような漠然とした命令はそれ自体違法であるという。然しながら右移転命令書には換地予定地の図面は所有者に送付済であるからこれを参照するように、又市庁備付の図面により福岡市復興係員の指示を受けるように記載してありこれによつて容易に移転先の位置を確認することができるから、本件移転命令には何等間然するところはないというべきである。以上の如く本件移転命令は適法であり、従つてこれを適法と認め原告の訴願を棄却した本件裁決にも亦何等違法の廉はないといわねばならぬと陳述した。(立証省略)

三、理  由

(一)  まず原告が特別都市計画法第十三条第二項のいわゆる関係者に該当するか否かについて調べるに、同条の規定だけをみると、一見、原告は右の関係者に該当するようであるが、実際問題として所有権以外の権利で登記を欠くか、又は後記の如き権利の届出をも為されていないときには、整理施行者において、このような権利の存在、種別及びその目的たる土地の所在等を確認するにつき著しい困難があるというべく然もこれを調査の上一一これ等の権利者に換地の交付をしなければならぬとすれば、到底円滑迅速なる都市計画事業の達成を期することができないから、同法施行令はその第四十五条において、耕地整理法第三十三条(既登記の所有権以外の権利に対する換地の交付)の規定は、所有権以外の未登記権利者が土地区劃整理施行地区の告示があつた日から一ケ月以内に、権利の存する土地の所有者と連署し、又は権利を証する書類を添付し、書面を以て整理施行者に権利の種別及びその目的たる土地の所在を届出た場合に限り未登記の権利についてもこれを準用する旨を規定して権利の届出をしない未登記権利者に対しては換地の交付(権利の指定)を為す必要がないこととした。そしてこのように権利の届出をしない未登記権利者には換地の交付を受ける権利はないのであるから、従つて従前の土地に対する換地処分の効力が生ずるまでの間仮の処置として為される換地予定地の指定通知をもこれを受ける権利がないと解するを相当とする。そうすれば借地権にして登記がなく又原告において所定の届出をも為していないこと当事者間に争なき本件において原告は、茲に関係者には該当しないものと解すべく、従つて被告福岡市長が原告に対し換地予定地の指定通知を為すことなく本件移転命令を発したことは当然であつて、この故に該命令を違法とする理由はない。

(二)  次に原告は本件移転命令書には何等移転先の明示がなく従つて何処に移転すべきかを確認することができないから、このような命令はそれ自体違法であるという。然しながら前記の通り原告としては換地予定地の指定通知を受ける権利はないから本件移転命令書に従前の土地に対する換地予定地たる移転先の明記がないからといつて、この故に直に該命令を違法とはいい難いのみならず、成立に争のない丙第一号証(本件移転命令書)には換地予定地の図面は所有者に送付済であるからこれを参照するように、又市庁備付の図面により福岡市復興部員の指示を受けるよう記載せられており、これによつて容易に移転先を知り得ない訳ではないから原告の前記主張は理由がない。然らば本件移転命令には原告主張の如き違法の廉はなく、従つてこれを認容して原告の訴願を棄却した本件裁決にも亦何等の瑕疵はないといわねばならない。なお原告は被告福岡県知事に対し本件移転命令の取消を命ぜられ度き旨請求しているが三権分立の建前と司法権の本質に鑑み裁判所としては自ら行政権を行使したり行政庁に対し命令を発したりする権限はないから裁判所に対しこのような行政庁に対する命令を発せられ度き旨請求するということはそれ自体失当である。

以上説明の通り原告の本訴請求はすべて理由がないからこれを棄却すべきものとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 入江啓七郎)

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